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大阪地方裁判所 平成9年(ワ)3718号 判決

原告

株式会社創建ホーム

右代表者代表取締役

吉村孝文

右訴訟代理人弁護士

木村眞敏

被告

堀木秀三

外二名

右被告三名訴訟代理人弁護士

河原林昌樹

主文

一  原告の請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第一  請求

被告らは連帯して、原告に対し、金一四二四万〇六四九円及びこれに対する平成九年五月七日(被告堀木秀三に対する訴状送達の日の翌日)から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二  事案の概要

本件は、原告が、分譲マンションを建設しようとしたところ、右マンション建設予定地の近隣住民である被告らが工事車両の進入を妨害するなどの方法でマンションの建設工事を妨害したため損害を被ったと主張して、被告らに対し、不法行為(共同不法行為)に基づく損害賠償を請求した事案である。

一  前提事実(証拠の記載がない事実は当事者間に争いがない事実である。)

1  原告は、土木建築工事の設計、監理、施工等を業とする会社であり、平成六年一一月一六日、別紙物件目録一ないし九記載の土地(以下「本件土地」という。)上に一戸建建売住宅を建設する計画を断念したいずみファイナンス株式会社(以下「いずみファイナンス」という。)から、マンション建設の目的で本件土地を購入した(甲三一)。

2  本件土地のうち北側の一部分(別紙物件目録一記載の大阪市鶴見区横堤一丁目一番八の土地。以下「一番八の土地」という。)は、原告と岡本政行(以下「岡本」という。)との共有地であり、別紙図面(乙七)のとおり東西に延びる道路(以下「本件道路」という。)の一部を構成している。また、本件道路の北半分の一部(同一丁目四番五の土地。以下「四番五の土地」という。)は、本件土地の北側に存在するマンション「ネオコーポ鶴見緑地二番街」(以下「ネオコーポ」という。)管理組合の管理地である(乙二、七、三二)。

3  原告は、本件土地に九階建ての分譲マンション(仮称「リーガル鶴見」。以下「本件マンション」という。)を建設するため、平成六年一二月二六日、大阪市建築主事に対し建築確認を申請し、平成七年一月二六日、同建築主事から建築確認通知を受けた(甲二)。

4  原告は、同月三一日、本件マンション建設のため、杭芯出し作業(杭を打つ位置を特定するために、杭打ち場所の中心の位置を測定する作業)に着手したが、それ以上の工事はしなかった。

5  本件土地の所在地付近は、都市計画法上の用途地域として準工業地域に指定されていたが、平成七年二月一日、第一種住居地域に変更された。

6  原告は、平成七年四月五日、池田建設株式会社(以下「池田建設」という。)及び安藤建設株式会社の共同企業体(以下「安藤・池田共同企業体」という。)に本件マンションの建設工事を請け負わせた(甲一、乙二七)。

7  被告らを含む本件土地の近隣住民は、リーガル鶴見建設反対対策協議会(以下「本件協議会」という。)を結成し、本件マンションの建設に抗議する運動を展開した。

8  本件マンションは、平成八年七月三一日、完成した。

二  原告の主張

1  (紛争の経緯)

(一) 原告は、平成七年一月三一日、本件土地において、ユンボを使用して杭打工事の一部である杭芯出し工事を開始し、本件マンションの建設工事(以下「本件工事」という。)に着工したが、近隣住民から抗議を受けたため、右工事を中止した。

(二) 原告は、本件工事を安藤・池田共同企業体に請け負わせ、平成七年三月上旬から本格的に開始する予定であったところ、被告らを含む近隣住民の一部は本件協議会を結成して、本件マンションの建設に反対し、これを阻止する旨記載したビラの配布等の活動を始めた。

(三)(1) 原告は、同年二月二五日、本件マンションの建設について、ネオコーポ管理組合の理事長白江宏章(以下「白江理事長」という。)や副理事長等に対し、一戸建建売住宅の建設計画をマンション建設計画に変更した経緯や工事の概要を説明し、計画図を配布した。

(2) 原告は、同年三月一八日に近隣住民に対する説明会の開催を予定したが、協力を得られなかったため、説明会の開催を断念せざるを得なかった。

(3) 同年四月三日には、原告は、近隣住民の理解を得るため、近隣住民に工事概要書を配布した。

(4) 原告は、本件協議会の代表者(会長)で、横堤第六振興町会(以下「第六町会」という。)会長でもある松田賢治(以下「松田」という。)と協議を重ねる一方、直接住民の理解を得るため努力を重ねた結果、同年五月には、松田の同意を得ることができ、第六町会に対し、解決金として二〇〇万円を支払った。

また、本件道路の一部の共有者である岡本からも同意を得ることができ、道路通行和解金として五〇〇万円を支払った。

(5) 原告は、同月二八日、同年六月一一日及び同月一八日に近隣住民に対する説明会を開催し、本件マンションの概要、工程、協定案につき、配置図、平面図、立面図を提示しながら説明し、住民からの質問に応じて、一戸建建売住宅の建設計画を断念せざるを得なかった事情や分譲マンションの建設計画に変更した事情、住民への説明の経緯等につき、繰り返し回答した。

(6) 同月中には、近隣住民の多数の意見を得る見込みが立ち、原告は近隣住民二一名との間で本件工事の方法等に関する協定書を取り交わした(被告らは、これらの者の大半は真の意味での近隣住民とはいえない旨主張するが[後期三1(九)]、うち二〇名は鶴見区横堤一丁目に居住しており、近隣住民である。)。

2  (第一回妨害行為)

原告は、前記のように近隣住民の理解を得る努力をした上で、平成七年六月一四日に草刈作業を、同月一九日に仮設材の搬入(二トントラック二台)を、同月二一日に縄張りの作業を行い、本格的に本件工事を開始した。

ところが、被告らは、近隣住民の一部を煽動し、原告に対して本件協議会の代表者である松田を解任した旨及び前記1(三)(4)の松田の同意は無効である旨通告し、同月二四日に本件マンションの建設反対運動を再開したため、原告は本件工事を中断せざるを得なくなった。

3  (第二回妨害行為)

(一) 原告及び池田建設は、近隣住民との話合いの上、同年七月二八日、本件工事を再開し、同年八月四日、杭掘削工事を開始した。

(二)(1) 原告及び池田建設が、同月五日午前一〇時三〇分ころに右杭掘削工事を継続しようとしたところ、被告らを含む本件協議会のメンバー一〇数名が本件工事現場の入口付近において、原告及び池田建設の従業員を取り囲み、かつ、大声で罵声をあびせるなどして行動の自由を奪い、工事の継続を不可能とした(むろん、工事車輌の進入は不可能であった。)。

(2) 同月七日早朝、被告らを含む本件協議会のメンバー二〇数名は、本件工事現場入口付近にテント、ブロック、椅子を設置し、かつ、原告及び池田建設の従業員並びに生コン車を取り囲み、大声で罵声をあびせるなどして、行動の自由を奪い、右従業員及び生コン車の本件工事現場への進入を不可能にした。

(3) その後、同月一一日までの間、被告らを含む本件協議会のメンバー二〇数名は、右と同様の態様で、原告及び池田建設の従業員や生コン車、建築機械・資材等の運搬車を取り囲み、本件工事現場への進入を阻止した。

(4) このように、同月五日から同月一一日までの間、被告らを含む本件協議会のメンバーの妨害により、原告及び池田建設は本件工事を行うことができなかった。

なお、原告及び池田建設の従業員は近隣住民に対し暴行、脅迫等を一切行っていない。警察官が駆けつけたのは、本件協議会のメンバーが原告及び池田建設の従業員や車輌等を取り囲み、大声で罵声をあびせるなどして一触即発の事態となったためである。

(三) 本件協議会は、その後も、本件工事現場入口付近に設置した前記テントに数名の監視人を置き、原告及び池田建設の従業員や工事車輌が本件工事現場に近づくと本件協議会の他のメンバーに連絡し、連絡を受けた他のメンバー(二〇数名)が、右(二)のような妨害行為を繰り返すという態勢をとっていた。そのため、原告は、同月一七日以降も本件工事を中断せざるを得なかった(なお、同月一三日から一六日までの間は原告及び池田建設の盆休みである。)。

(四) そこで、原告が本件協議会のメンバーに対し建築工事妨害禁止仮処分を申し立てた(大阪地方裁判所平成七年(ヨ)第二二八八号)ところ、本件協議会は、同月二〇日、前記妨害行為を取り止めたため、原告は右申立てを取り下げ、同月二一日、本件工事を再開した。

4  (第三回妨害行為)

(一) ところが、同年九月八日、被告らを含む本件協議会のメンバー二〇数名は、前記3(二)と同様の妨害行為をしたのに加え、本件道路において、道路幅いっぱいに本件マンション建設反対と記載された横断幕を掲げて群がり、工事車輌の進入を不可能とした。このため、原告らはやむをえず、本件工事を中断した。

(二) 本件協議会は、その後も、前記テントに監視人を数名常駐させており、原告が工事を再開した場合には本件協議会の他のメンバーに連絡し前記と同様の妨害行為を行う態勢をとっていた。

(三) 原告は、やむなく、被告堀木秀三(以下「被告堀木」という。)に対し、建築工事妨害禁止仮処分を申し立てた(大阪地方裁判所平成七年(ヨ)第二五六二号)。

同年一〇月六日、本件工事の妨害の禁止等を命ずる仮処分決定がなされたため、被告らによる本件工事の妨害は、同日終了したので、原告らは、同月七日、本件工事を再開した。

5  (共同不法行為)

(一) 本件協議会は、その名称どおり本件マンションの建設を阻止する(一戸建住宅以外の建築を認めない)ことを目的とした団体であり、その手段として、繰り返し、前記2ないし4のとおりの妨害行為を行った。そして、本件協議会のメンバーは、右目的達成のために右手段を用いることについて合意して本件協議会に参加していたものである。

したがって、本件協議会のメンバーである被告らは、右妨害の具体的行為に参加していたか否かにかかわらず、右合意がある以上、共同不法行為者として当然に右妨害行為に対する責任を負わなければならない。

のみならず、被告らは、単に本件協議会のメンバーになっていたというだけではなく、被告堀木は本件協議会の会長として、被告千頭俊也(以下「被告千頭」という。)及び被告渡邊高子(以下「被告渡邊」という。)はその幹部として、妨害行為をするよう本件協議会のメンバーを指揮し、煽動したものであり、特に被告堀木及び同千頭は前記3及び4の各妨害行為に常に参加し、同千頭は拡声器を使用して他のメンバーを指揮、煽動したものである。

(二) なお、被告らは、本件マンション建設反対運動が起こった背景には、一戸建建売住宅を建設すると説明していたにもかかわらず、近隣住民に対する事前の説明もないまま突如マンションの建設計画に変更し、しかも住民にその計画が判明した後も計画の推進を一方的に主張し、住民を無視して変更後の用途地域に適合した建築確認を受けずに違法な工事を強行しようとした原告の不当な行動があり、被告らはこのような原告の行動を問い質し、説明を求めることを主眼とした抗議行動に及んだだけであり、何ら違法な行為は行っていない旨主張する。

しかし、本件土地上に一戸建建売住宅の建設計画をしていたのは本件土地の前所有者であるいずみファイナンスであり、同社は、右計画実現のための諸条件が満たされず、事業として成り立たなくなったためやむなく右計画を断念したものであり、原告自身は本件土地を取得したときからマンション建設を計画していたのであって、計画を変更したことはない。また、本件マンションは適法に建築確認を受けた上、用途地域の変更前に杭打工事の一部である杭芯出し工事を行って本件工事に着工したのであるから、建築基準法上何ら問題はなく、現に本件工事開始後現在に至るまで大阪市から何らのクレームも受けていないのであるから、本件工事が違法な工事であるというのは誤りである。

6  (損害)

原告は、被告らの前記妨害行為により、次の(一)ないし(四)の合計一四二四万〇六四九円の損害を被った。

(一) 本件工事の妨害行為により直接発生した損害

計六六九万五〇〇〇円

(1) 平成七年八月五日から同月二〇日までの間の妨害行為(前記3の第二回妨害行為)により、本件工事が中断したため被った損害

① 杭打機械待機損料 四五〇万円

② 杭生コン廃棄損料

二八万五六〇〇円

③ 杭用鉄筋埋殺処分料

九万七八〇〇円

(2) 平成七年九月八日から同年一〇月六日までの間の妨害行為(前記4の第三回妨害行為)により、本件工事が中断したため被った損害

① 杭打機械待機損料一〇三五万円

② 残土処理のためのダンプ待機損料 六三万円

(3) 右(1)及び(2)の期間の警備員の費用 一〇二万円

(4) 但し、原告は、右(1)ないし(3)の合計額を、池田建設との話合いにより、六六九万五〇〇〇円に減額してもらった。

(二) 工期短縮のための割増料

計五一五万円

原告と安藤・池田共同企業体との当初の約定では、着工日は平成七年三月一日、完成引渡日は平成八年一月三一日としていたが、本件協議会が反対運動を行ったため、原告は近隣住民との話合いに応じざるを得なくなり、着工が遅れたので、平成七年五月下旬、安藤・池田共同企業体との話合いにより、完成引渡日は平成八年三月末日に延期された。さらに、第一回妨害行為の結果、完成引渡日は延期され、第二回妨害行為が始まった平成七年八月五日時点における完成予定日は平成八年五月末日であった。

ところが、前記3の第二回妨害行為及び前記4の第三回妨害行為による工事中断のため、実際に工事を再開できたのは平成七年一〇月七日であるが、工事の中断により放置されていた中途工事の整理や下請業者との再契約、材料の再調達・人夫の再手配など多大の無駄な時間を要することとなり、実質的に前向きの工事が開始できたのは同年一一月一日であったので、完成予定日は平成八年八月末日まで延期された(本来の工期である一一か月を安藤・池田共同企業体の企業努力により一か月短縮することを前提とする。)。しかし、原告は、右のような工事の遅延により、マンション購入者その他関係者に多大の迷惑をかけることになるため、多額の割増料を支払って突貫工事を行った結果、右の予定より一か月早い平成八年七月末日に本件マンションを完成した。その支払った割増料の額は左記のとおりであり、原告は同額の損害を被った。

(1) コンクリート早強割増料

一二七万五〇〇〇円

(2) 型枠大工増員料

一五六万八〇〇〇円

(3) 鉄筋工増員料 一〇〇万円

(4) タイル工増員料

八八万六五〇〇円

(5) 木工増員料一八六万三〇〇〇円

(6) 諸経費 六五万円

(7) 但し、原告は、右(1)ないし(6)の合計額を、池田建設の好意により、五一五万円に減額してもらった。

(三) 本件マンションの完成引渡しが四か月遅延したことによって被った損害 計一八九万五六四九円

前記のとおり本件マンションは平成八年七月末日に完成したが、これは、被告らの妨害行為が始まる前に予定されていた完成引渡日である同年三月末日から四か月遅延したものである(なお、平成七年八月一三日から同月一六日までの間の盆休みについては、原告は右盆休みの期間も考慮したうえで工事完成日を予定していたので、工事が遅延した期間の計算に当たって、盆休みの期間は影響しない。)。

(1) 本件マンションの販売代金の入金が四か月遅れたため、本件工事費用の借入金二億四〇〇〇万円に対する年1.625%の割合による金利を右期間負担したことによる損害

一三〇万三六四九円

(2) 本件マンションの購入者の一人である吉松孝の契約入居日が四か月遅延したため同人に支払った補償金(販売業者である株式会社創生が同人に立替払いしたので、原告は同社に支払った。) 五九万二〇〇〇円

(四) 仮処分申立て等の弁護士費用(着手金) 五〇万円

三  被告らの主張

1  (紛争の経緯)

(一) 横堤第一〇振興町会(以下「第一〇町会」という。)会長であった被告堀木及び松田第六町会会長は、平成六年七月下旬、いずみファイナンスの担当者及び原告の営業部長田邉文康(以下「田邉部長」という。)から、本件土地に建売分譲住宅の開発を予定しているので、本件道路の通行に同意して欲しいとの話を持ちかけられた。

しかし、本件道路の一部を構成している四番五の土地は前記のとおりネオコーポ管理組合の管理地であり、開発許可を申請するには右管理組合の同意が必要であることから、同年八月二〇日、田邉部長、流通企業株式会社取締役三輪秀行、日本信託銀行大阪支店不動産営業室次長中桐文彦の三名がネオコーポ管理事務所を訪れ、白江理事長に対し、右管理組合の管理地の通行について同意を要請した。このとき、田邉部長らは、建設予定の建物について、「開発に当たっては、地元から『マンションはダメだが一戸建ならよい』との条件があるので、この図面にあるとおり、車庫付三階建住宅一七戸の建設を予定している。」「区割りの変更など多少の変更はあるかもしれないが、計画が大きく変更されることはない。」と説明した。白江理事長は、重要な案件であるので文書で要請するよう申し入れた。

原告は、同月二四日、「開発道路申請に関するご挨拶および同意ご依頼の件」と題する文書を右管理事務所に持参した。

その後、原告は、境界確認作業のためと称して測量士を管理事務所に派遣したきりであり、田邉部長は、白江理事長からの問合わせに対しても、他の地権者である岡本と交渉中であると回答するのみで、管理組合に対して通行同意を求めることはなかった。

(二) このように原告は、一戸建建売分譲住宅を建設すると説明していたにもかかわらず、同年一二月、近隣住民に事前に説明することなく、本件マンションの建築確認申請を行い、平成七年一月二六日に建築確認通知を受けた後も、近隣住民に対してマンションを建設することを説明することはなかった。

(三) 同年二月中旬、白江理事長が田邉部長に本件土地の開発計画の進捗状況を問い合わせたところ、同部長からマンションを建設する計画が初めて明らかにされた。このとき、田邉部長は、「平成六年一一月に本件土地をいずみファイナンスから原告が譲り受けた。それまでは事情があって購入できなかったため、いずみファイナンスの条件で建売住宅の建設計画を進めてきたが、自分の土地となった以上、何を建てようが勝手なので、九階建二九戸の分譲マンションを建てる予定である。マンションを建設することは平成七年二月初めに岡本に話したが、怒っていた。」と説明し、また、この時点でマンション建設計画を知っているのは岡本と白江理事長だけであると話し、原告が近隣住民に知られないように密かにマンションの建設計画を進めていたことが明らかになった。

白江理事長が直ちに大阪市役所に問い合わせたところ、既に建築確認が下りていることを知り、田邉部長に電話で抗議したところ、同部長は、「自分の土地だから何を建てようと自由である。建築確認も下りているのだから、周囲がいくら反対しようとマンションは建てる。マンションはダメというのであれば、それがなぜダメなのか、どこが違法なのかを言ってほしい。人道上の点から工事説明会は開くが、建設反対の説明会であれば開催しない。」と答え、これまでの経緯を全く無視した、聞く耳を持たないという対応であった。

(四) 同年三月三日、本件マンションの販売についての新聞折込広告が配布され、近隣住民は初めて本件土地にマンション建設が計画されていることを知った。同月二九日には二回目の新聞折込広告が、同年四月二日には三回目の新聞折込広告が配布され、また、同日、モデルルームがオープンした。

原告は、同月三日、近隣住民の一部に対し、同月一七日に本件工事を開始する旨記載したビラを配布し、初めて近隣住民は着工時期を知った。これにより、原告が近隣住民を無視してマンション建設を強行しようとする姿勢が明らかになった。

(五) そこで、同月一八日、一戸建建売住宅の建設計画をマンション建設計画に変更した経緯などについて原告に説明を求めることを目的として、松田第六町会会長を中心に、第六町会と第一〇町会が協力して本件協議会が正式に発足した。したがって、それ以前に被告らが本件マンションの建設を阻止する旨記載したビラの配布等の活動をしたということはない。

(六) その後、原告が本件協議会の代表者と協議を重ねたということはなく、本件協議会の方から話合いの機会をもつよう原告に働きかけたものであり、同年五月二八日と六月一一日に話合いの機会を設けたが、いずれも、事前の約束に反して原告代表者が出席しなかったため実質的な話合いをすることができなかった。

(七) 本件協議会の働きかけにより、同月一八日、初めて原告代表者が出席して話合いの機会がもたれた。原告代表者がマンション建設に計画を変更した経緯を説明しないため、住民が説明を求めたところ、原告代表者は、「一部住民の反対は分かっているが、理解を得ようとは思わない。自分の土地に何を建てようが勝手である。」と言い放ち、話合いというには程遠い態度をとったため、実質的な話合いに入ることができないまま終了した。また、その席上、原告代表者は、同月二六日に着工すると一方的に通告した。

(八) 原告は、同年五月、本件協議会の代表者で第六町会会長の松田の同意を得ることができ、第六町会に対し二〇〇万円を支払ったと主張するが、本件協議会及び第六町会は原告との間の金銭授受に関与していない。松田が原告から金銭を受領したことは、右(七)の同年六月一八日の話合いの席上で初めて知らされたことであるので、本件協議会は、同月二〇日に松田を解任して後任の会長に堤尚(以下「堤」という。)を選任するとともに、本件協議会は原告からの金銭受領とは無関係である旨記載した同月二九日付内容証明郵便を原告及び松田に送付した。

(九) 原告は、近隣住民二一名との間で本件工事の方法等に関する協定書を取り交わしたと主張するが、右協定書の署名者の大半は、本件工事の影響を受けないであろうと考えられる場所の居住者であり、真の意味での近隣住民とはいえない。

2  (原告主張の第一回妨害行為について)

原告は、同年六月一四日に本格的に本件工事を開始した旨主張するが、前記のとおり、同月一八日に本件協議会と原告との話合いの機会がもたれており、それ以前の同月一四日に本件工事が開始されたという事実はない(工事が開始されたのは、後記のとおり同年七月二八日である。)。原告が主張する草刈作業、仮設材搬入、縄張りの作業は、本格着工の準備行為にすぎない。このように工事が行われていない以上、反対運動が行われるはずはないし、工事の中断ということもありえない。

3  (原告主張の第二回妨害行為について)

(一) 同年六月一八日の話合いが前記のとおり実質的な話合いに入ることができないまま終了した後、同年七月五日になって突然、池田建設の従業員である名越通也(以下「名越」という。)が堤会長を訪問し、「原告から工事を始めてくれと言われているが、実際現場で作業する池田建設としては地元の理解なしにはとても進められない。原告との間を取り持つので、説明会の再開を前向きに検討して欲しい。」と要請するとともに、原告との話合いがつくまで工事をしないと明言した。そして、同月七日には名越及び同じく池田建設の従業員である小沢隆志(以下「小沢」という。)が、同月二六日には名越が堤会長宅を訪問し、今後の話合いの進め方を本件協議会との間で検討していた。

ところが、その矢先の同月二八日午前七時二〇分ころ、建設資材(鉄筋)とクレーン車が搬入され、同年八月一日に作業員二名による工事が始まった。

このように原告が話合いがつくまで工事をしないとの約束に反して突然工事を始めるという暴挙に出たため、本件協議会は、話合いの場につくことを求めて、以下のように抗議行動をとらざるをえなくなったのである。

(二)(1) 八月五日の状況

本件協議会のメンバーが、原告及び池田建設の従業員を取り囲んだり、大声で罵声をあびせるなどして行動の自由を奪ったことなど一切ない。本件協議会は、原告が工事を開始しようとする姿勢を示したため、現場に赴き、「工事を止めて、話合いをして下さい」と工事関係者に呼びかけたことはあるが、この呼びかけは、前記のとおり、同年七月五日の時点で池田建設が話合いがつくまで工事をしないと約束していたため、その約束の遵守を求めたものにすぎない。

(2) 八月七日の状況

本件協議会がテントを設置したのは八月五日の深夜のことである(原告が、右設置の日を八月七日と主張するのは、五日・六日が土曜日・日曜日で工事が行われておらず、七日早朝になって初めてテントの存在に気付いたからである。)。そして、テント、テントの支柱を支えるためのブロック、監視活動のための椅子は、いずれもネオコーポ管理組合の管理地内に設置したので、工事車輌が本件工事現場に出入りするのに何ら支障はない。また、本件協議会のメンバーが、原告及び池田建設の従業員並びに生コン車を取り囲み、大声で罵声をあびせるなどしたことはない。

したがって、本件工事は午前九時から何の支障もなく行われた。本件協議会は、また前記約束に反して工事が行われていることを知り、現場に赴き、原告の田邉部長らと話し合った。そして、本件工事は午後から中止されたが、これは原告及び池田建設が本件協議会との話合いに応じたためである。

(3) 八月一一日までの状況

① 原告は、八月八日以降も同月一一日までの間、被告らを含む本件協議会のメンバーの妨害により原告及び池田建設は本件工事を行うことができなかった旨主張するが、同月八日、同月九日にも作業は行われ、工事は進行していた。

② 原告は、同月一〇日も午前中も工事を行っていた。ところが、午後になって突然、原告の従業員らが、ネオコーポ管理組合の管理地から住民を出させない目的で、同管理地と本件土地との境界上に杭を打ち始めた。これに対し、近隣住民が抗議したところ、原告の従業員らが住民に暴行を加えたため、住民の一人が一一〇番通報をした。原告の従業員らは、接近してきたパトカーに気付くと、急遽杭を抜き始めた。この日は警察の指導により工事が中断された。

③ 同月一一日、午前中は工事車輌の出入りはなく、午後になって、現場から少し離れた場所に原告の従業員と称する者が二〇名以上現われ、近隣住民と道路を隔てて睨み合う状態となり、住民を威嚇し、なかには住民の一人の腕をもって引き倒し、傷害を負わせた者もいた。原告の従業員らがいまにも住民に襲いかかろうとしていた矢先にパトカーが通りがかり、警察官が「住民にけが人が出たら、逮捕するぞ」と警告を与えたため、これ以上の混乱はなく、この日も警察の仲介により工事は中断された。

(三) 八月一二日から同月二〇日までの間は工事は行われなかったが、それは原告及び池田建設の盆休みのためであり、本件協議会の活動とは全く関係がない(原告は、盆休みの期間は同月一三日から一六日までの間と主張するが、事実に反する。)。

なお、同月一九日、盆休みを利用して、本件協議会と原告との話合いが行われたが、このときも原告側からの一方的な話に終始し、実質的な話合いにはならなかった。

(四) 原告が本件協議会のメンバーに対し建築工事妨害禁止仮処分を申し立て、右申立てを取り下げたことは認めるが、右取下げの日は八月二四日であるし、その取下げの理由は、本件協議会が妨害行為を取り止めたためではなく、堤会長が本件協議会のメンバーに諮ることなく金銭交渉の方針に転換したため、原告にとって同人らを相手方とした仮処分命令の申立てを維持する必要性がなくなったからにすぎない。

原告が同月二一日に本件工事を再開したことは認めるが、同日に工事を再開した理由は、盆休みが終わったからにすぎず、仮処分の申立てとは無関係である。

4  (原告主張の第三回妨害行為について)

本件協議会が同年九月八日に抗議活動を再開したことは認める。しかし、抗議活動といっても、ネオコーポ管理組合の管理地内に張られたテントの中から数名の主婦が工事車輌の出入りなど工事の進捗状況を監視し、記録するというものにすぎず、原告が主張するように本件協議会のメンバーが道路幅いっぱいに本件マンション建設反対と記載された横断幕を掲げて群がり、工事車輌の進入を不可能にするというような態様のものではなかったし、このように本件協議会が抗議活動を再開したのは、原告及び池田建設が話合いがつくまで工事をしないと約束していたにもかかわらず、同年八月二一日に本件工事を再開し、警察の指導によって行われた話合いでも原告の一方的な話に終始し、同年九月七日、堤会長が本件協議会を脱会して原告と金銭交渉を始めるに至り(本件協議会は同月一三日後任の会長に被告堀木を選任した。)、原告が本件協議会との話合いを一切拒否する姿勢に出たため、本件協議会として、原告に対し抗議の意思を示すとともに、原告を話合いの席につかせるためであるから、何ら違法ではない。

5  (共同不法行為に関する原告の主張について)

(一) 原告は、平成七年一月二六日に本件マンション建設について建築確認を受けたというが、都市計画法上の用途地域が変更された場合、用途地域の変更前に工事に着手していない限り、変更前の用途地域を前提とした建築確認は効力を失うから、工事を実施するためには改めて変更後の用途地域に適合するように設計変更した上で再度建築確認を受ける必要があるところ、本件土地の所在地付近の用途地域が同年二月一日に準工業地域から第一種住居地域に変更されたにもかかわらず、原告は改めて建築確認を受けていないのであるから、本件工事は違法である。原告は、用途地域変更の前日である同年一月三一日に杭芯出し作業を行ったが、これは芯出し作業の事前準備行為にすぎず、杭打ちそのものではないため、着工とはいえない。

(二) 本件協議会は、原告主張のように本件マンションの建設を阻止することを目的とした団体ではなく、前記1(五)のとおり一戸建建売住宅の建設計画をマンション建設計画に変更した経緯などについて原告に説明を求めることを目的とした団体である。本件協議会が結成されたのは既に建築確認が下りた後のことであり、メンバーはいずれも、本件土地の所有者が法に適ったマンションを建築することについて異議を差し挟む余地がないことは十分承知していたからである。

したがって、本件協議会は、前記のとおり、原告が主張するような妨害行為を行っておらず、特に被告渡邊は本件協議会の行動に参加することさえ控えていたのであるから、被告らが原告に対し損害賠償責任を負うことはない。

本件マンション建設反対運動が起こった背景には、一戸建建売住宅を建設すると説明していたにもかかわらず、近隣住民に対する事前の説明もないまま突如マンションの建設計画に変更し、しかも住民にその計画が判明した後も計画の推進を一方的に主張し、住民を無視して変更後の用途地域に適合した建築確認を受けずに違法な工事を強行しようとした原告の不当な行動がある。被告らはこのような原告の行動を問い質し、説明を求めることを主眼とした抗議行動に及んだだけであり、何ら違法な行為は行っていない。

(三) 原告は、本件協議会のメンバーである被告らは、妨害の具体的行為に参加していた否かにかかわらず、共同不法行為者として当然に妨害行為に対する責任を負わなければならない旨主張するが、本件協議会のメンバーであるというだけでは共同不法行為は成立しない。共同不法行為が成立するためには、共同行為者各自の行為が客観的に関連し共同しているとともに、各自の行為がそれぞれ独立に不法行為の要件を備える必要があるから、仮に具体的妨害行為があったとしても、その妨害行為について責任を負うのは、妨害行為を客観的に共同した行為者にとどまるのであって、共同していない者に対してまで責任は及ばない。したがって、原告は、被告らがそれぞれ当該妨害行為にどのように共同したかを具体的に特定して主張すべきであるにもかかわらず、被告らの妨害行為について具体的に主張しないから、原告の主張は失当である。

6  (損害の主張について)

原告が被告らの行為により損害を被ったとの主張はすべて争う。

仮に、本件工事着工の遅れの原因が近隣住民との話合いに応じたことにあったとしても、そもそも話合いに応じるかどうかは原告が自主的に判断して決めるべき問題であり、話合いに応じることを本件協議会が強制したわけではないから、着工の遅れの責任を本件協議会に負わせることはできない。しかも、前記3(一)のとおり、話合いがつくまで工事をしないとの約束が池田建設との間でなされ、話合いの進め方を検討していた矢先の平成七年七月二八日に、突然工事が開始されているのであり、この事実は、話合いの成否に関係なく工事に着手することが可能であったことを物語っており、話合いに応じなければならなかったが故に着工が遅れたというわけでない。

また、原告が主張する工事遅延期間については、工事が実際に開始されたのは右平成七年七月二八日であるから、それ以前に工事妨害の問題が生じる余地はないし、実際に工事が行われた期間(同年八月七日から一〇日午前中まで)や工事が予定されていなかった期間(盆休みの同月一二日から二〇日まで)も含まれている。

さらに、同年八月七日から一一日までの五日間になされた本件協議会の抗議行動は、テントから本件工事の様子を監視し、現場監督に掛け合って話合いを要請するというだけのものであり、工事を妨害するようなものではなかった。同年九月九日から一〇月六日までの間になされた抗議行動も、常時二、三人の女性が監視テントから本件工事の様子を監視するだけで、座り込んだり障害物を置くなどして道路を封鎖し、工事車輌の進入を阻止するというようなものではなかったから、工事を実施することは十分可能であった。にもかかわらず、この期間の工事現場は事実上休止状態であり、原告が本格的に工事に着手しようとしたという状況は一度も発生していない。

第三  当裁判所の判断

一  前記第二の一(前提事実)及び証拠(甲一ないし五、七ないし一一、一二の1・2、一三、一四、一五ないし一八、三一[後記認定に反する部分を除く]、検甲一ないし一七、乙一[後記認定に反する部分を除く]、二ないし五、六の1・2、七ないし一〇、一四ないし一七、一九、二〇、二一[後記認定に反する部分を除く]、二二、二三、二四[後記認定に反する部分を除く]、二五ないし二七、二八の1・2、二九、三〇[後記認定に反する部分を除く]、検乙一ないし四八、証人田邉、同井尻雅己[以下「井尻」という。]、被告堀木、検証の結果)によれば、以下の1ないし12の事実が認められる。

1  原告は、当時本件土地を所有していたいずみファイナンスとともに、本件土地上に建売分譲住宅を建設して分譲(販売)する事業を計画し、併せて本件道路の開発許可申請を計画していたところ、本件道路の一部を構成している四番五の土地がネオコーポ管理組合の管理地であったため、原告の従業員である田邉部長及びいずみファイナンスの担当者は、平成六年七月下旬、松田第六町会長の紹介を受けて、ネオコーポの住民で構成されている第一〇町会の町会長である被告堀木に会い、本件土地上に一戸建建売分譲住宅の建設を計画していることを明らかにし、四番五の土地の通行について同意を求めた。被告堀木は、四番五の土地を管理しているネオコーポ管理組合の白江理事長に話をするよう返答し、白江理事長にもその旨伝えた。

同年八月二〇日、田邊部長は、流通企業株式会社取締役三輪秀行、日本信託銀行大阪支店不動産営業室次長中桐文彦とともにネオコーポ管理事務所を訪れ、白江理事長に対し、「本件土地の開発に当たっては、地元からマンションはダメだが一戸建ならよいとの条件があるので、車庫付三階建住宅一七戸の建設を予定している。区割りの変更など多少の変更はあるかもしれないが、計画が大きく変更されることはない。」と説明し、四番五の土地の通行について同意を求めた。白江理事長は、重要な案件であるとして文書で要請するよう申し入れた。

そこで、原告は、同月二二日ころ、白江理事長に対し、本件土地上の分譲住宅建築販売事業のために開発許可申請及び通行についての同意を求めることを内容とする原告名義の「開発道路申請に関するご挨拶および同意ご依頼の件」と題する文書(乙二)を右管理事務所に持参した。しかし、その後、原告が管理組合に対して重ねて右同意を求めることはなかった。

同年九月二五日、白江理事長は、管理組合の定期総会において、組合員に対し、本件土地上に一戸建住宅の建築計画があることを説明した。

2  同年九月ころ、原告は、建売住宅分譲事業を断念したいずみファイナンスから、一戸建建売住宅を建設するという条件で本件土地を購入してほしいとの申込みを受け、一戸建建売住宅の建設では採算が合わないとしていったんは購入を断ったが、いずみファイナンスが右条件を外したので本件土地上にマンションを建設して分譲するのであれば採算が合うと判断し、同年一一月一六日、いずみファイナンスから本件土地を買い受けた。

そして、原告は、同年一二月二六日、大阪市建築主事に対し本件マンションの建築確認を申請し、平成七年一月二六日、右建築確認通知(甲二)を受けた。この間、原告は、近隣住民に対してマンション建設計画に変更したことを説明することはなかった。

3  原告は、同月三一日、近隣住民に予告することなく、本件土地にユンボ一台を搬入し、本件土地のアスファルトの一部をめくり、杭芯出し作業を始めた。しかし、松田第六町会長から抗議を受けたため、右作業は中断された。

本件土地の所在地付近は都市計画法上の用途地域として準工業地域に指定されていたが、同年二月一日、第一種住居地域に変更された。

原告は、同月上旬、大阪市計画局建築指導部建築監察課に対し、同年一月三一日に本件工事に着工したが、地域住民から抗議を受け、工事を進めることができなくなったため、一時中断している旨報告した。

4  原告は、同年二月上旬、一番八の土地の所有者である岡本に本件土地上にマンションを建設する計画を明らかにした。

同月中旬、白江理事長が田邉部長に本件土地の開発計画の進捗状況を問い合わせたところ、同部長から本件土地にマンションを建設する計画が初めて明らかにされた。このとき、田邉部長は、「本件土地をいずみファイナンスから譲り受けた。それまでは事情があって本件土地を購入できなかったため、いずみファイナンスの条件で建売住宅の計画を進めていたが、自分の土地となった以上、何を建てようが勝手なので、九階建二九戸の分譲マンションを建てる予定である。マンション建設計画を知っているのは岡本と白江理事長だけである。」と話した。白江理事長は、その真偽を確かめるべく大阪市役所に問い合わせたところ、既に本件マンション建設について建築確認が下りているとの回答を得たので、田邉部長に電話で抗議したが、同部長は、「自分の土地だから何を建てようと自由である。建築確認もおりているのだから、周囲がいくら反対しようとマンションは建てる。マンションはダメというのであれば、なぜダメなのか、どこが違法なのかを言ってほしい。人道上の点から工事説明会は開くが、建設反対の説明会であれば開催しない。」と返答した。

同月二五日、田邉部長、本件マンションの設計・工事監理者である建築事務所の井尻雅己、池田建設の小沢、名越は、ネオコーポ管理事務所において、白江理事長、副理事長などに対し、図面を配布して、本件マンションの建設計画について説明した。白江理事長は第一〇町会長の被告堀木には本件マンション建設計画について話したが、大部分の近隣住民は本件土地上に本件マンションが建設されることを知らされなかった。この時点で、原告の住民に対する説明会は何ら具体的には計画されていなかった。

同年三月三日ころ、原告は、本件マンション販売のチラシ(乙三)を新聞折込広告として配布し、大部分の近隣住民は、これにより初めて、原告が本件土地にマンション建設を計画していることを知り、原告に対し不信感を抱くに至った。

これを受け、近隣住民は、同月七日、大阪市議会議長に本件マンション建設反対の陳情を行い、また、松田第六町会長は、第一〇町会長の被告堀木に対し、第六町会としては本件マンション建設に反対するので第一〇町会もこれに協力するよう要請し、第六町会、第一〇町会、横堤第九振興町会(以下「第九町会」という。)、ネオコーポ管理組合の役員等が中心となって本件協議会の準備会を組織し、本件マンション建設についての対策の検討を始め、同年四月七日には、住民四四四名の反対署名を大阪市長に提出した。

原告は、同年三月二九日と四月二日にも本件マンション販売のチラシを新聞折込広告として配布し、同日、本件マンションのモデルルームを開設し、同月三日、近隣住民に対し、同月一七日に本件工事に着工する旨記載したビラと工事概要書(乙一四)を配布し、同月五日、安藤・池田共同企業体の代表である池田建設との間で、正式に、着工・平成七年三月一日、完成・平成八年一月三一日、請負代金額・三億六〇五〇万円とする本件マンション建築請負契約(甲一)を締結するなどして、本件マンションの建設・分譲の準備を進めた。このころ、原告は、近隣住民から高さの削減や設計の変更などを要望されても、これに応じることは考えていなかった。

原告は、右のとおり同月一七日に着工する予定であったが、着工は延期された。

近隣住民は原告に対する不信感を強め、同月一八日、第六町会、第一〇町会、第九町会に属する近隣住民のうち一五六名を会員として本件協議会が正式に発足し、会長には松田第六町会長、副会長には被告堀木(第一〇町会長)が就任した。第一〇町会の被告千頭、第六町会の被告渡邊も本件協議会の会員となった。本件協議会の発行する「協議会だより」同年五月一五日付創刊号(乙一五)中には、「事業主の(株)創建ホーム(原告)は、本件土地の開発について、三階建の建売住宅を建設する旨を地元住民に説明しておきながら、突然、九階建マンションを建設すると通告し、工事を強行しようとしています。このような地域無視・企業利益優先のマンション建設は、デベロッパーの良識を逸脱し、非常識きわまりないことはもちろん、建設によって地元住民にもたらされる利益は何一つないどころか、日照被害・プライバシー侵害・騒音被害・迷惑駐車・財産侵害など、正に『百害あって一利なし』の建物であり、到底容認できるものではありません。(中略)そして、四月一八日には『リーガル鶴見建設反対対策協議会』(本件協議会)が正式に発足し、あくまで建設白紙撤回を勝ち取るため、地域住民が一体となって運動していくことを確認しました。」との記載がある。

本件協議会は、原告に対し同年五月四日付で環境破壊を理由にマンション建設の白紙撤回を求める要求書を送付し、原告は、同月九日付内容証明郵便(乙一六)により、本件協議会に対し、本件マンションは地域に適合している建物であると自負しており、マンション住民がマンション建設に反対するのは理解に苦しむところであり、原告としては近隣住民に対し説明会を開催して理解を得るべく努力するので円満な解決をお願いする旨回答した。

5  ところが、松田は、同月一六日、本件協議会の他のメンバーに諮ることなく、本件マンションの建設及び建設工事に同意し、第六町会が同意し協力する旨の「第六町会長松田代理人松崎洋右」名の同意書(甲七)を原告に渡し、原告は第六町会の代理人としての松崎洋右に対し、近隣対策費として二〇〇万円を支払った(甲九)。原告は、松田が第六町会長として二〇〇万円を受領したと考えていたが、右二〇〇万円は第六町会の会計には入金されなかった。

原告は、同日、本件道路の一部である一番八の土地の所有者である岡本からも、本件マンション建設工事やそれに伴う本件道路の開発許可申請・通行について同意する旨の念書(甲八)を受け取り、岡本に五〇〇万円を支払った(甲一〇)。

6(一)  本件協議会は、原告に対し、原告代表者が出席した上での説明会の開催を求めたので、これを受け、同月二八日、原告の従業員(近隣担当平山)、池田建設の従業員である小沢、名越が出席して、近隣住民(松田第六町会長等約五〇名)との話合いの機会が持たれたが、原告代表者は出席しなかった。

原告側は、近隣住民に対し、配置図、平面図、立面図などを配布して、本件マンションの概要、工程について説明し、着工前に地縄張り(地積調査)や写真撮影をすることは認めて欲しいが、予告なく音がするような本格的工事を開始するようなことはしない旨述べ、作業時間、休日、安全対策、家屋調査、電波障害等に関する協定書案を配布してその内容を説明した。

住民側は、三階建建売住宅の建設計画を九階建マンション建設計画に変更した理由を問い質し、原告側は、当初いずみファイナンスから本件土地の購入依頼があったときは一戸建建売住宅を建設することが条件であったため、接面道路の関係でいったんはその購入を断ったが、そのあと、いずみファイナンスから右条件を解除した上で再度購入依頼があったため、マンションを建設することを目的として本件土地を購入した旨回答した。また、本件マンションの建築確認が同年一月に下りた後も近隣住民に対し説明がなかったのは納得できないとの住民側の意見に対しては、原告側は、松田会長に説明し、ネオコーポ管理組合の白江理事長らにも二月二五日に説明しており、その後何度も説明会の開催を依頼したが応じてもらえなかった旨回答した。しかし、住民側は、とにかく原告代表者の説明を聞きたい、そうでなければ話合いには応じられないとの見解であったため、原告側が次回には原告代表者が出席するよう手配する旨述べて、散会となった。

(二)  同年六月一一日、原告と本件協議会との間の二回目の話合いの機会が設けられたが、原告代表者が出席しなかったため、住民側から、原告代表者が出席する約束であったのに約束が違う、原告代表者から直接マンション建設への計画変更の経緯の説明を受けたいので、これ以上話合いには応じられないとの意見が出され、原告側が次回の原告代表者の出席を約束して散会となった。

(三)  原告は、同月一四日、本件土地の草刈作業を行った。

(四)  同月一八日(日曜日)、原告代表者、田邉部長、平山、設計者井尻、池田建設の中安副支店長、小沢が出席し、近隣住民(松田第六町会長等約三〇名)との間の三回目の話合いの機会が設けられた。席上、住民側が、三階建建売住宅の建設計画を九階建マンション建設計画に変更した理由の説明を求めたところ、原告側は、建売住宅の建設計画は原告が本件土地を取得する前の話であり、事業として成立しにくいと判断して建売住宅の建設計画を断念し、マンション建設計画に変更した旨回答した。住民側が計画変更の連絡がなかった理由を問い質したところ、原告側は、計画が未定のままでは相談に行けないし、建築確認取得後の同年二月二五日にまずネオコーポ管理組合の白江理事長に説明したところ、全体会議の日程が決まり次第原告に連絡するとの回答を得ており、また、松田第六町会長や第九町会長にも図面の説明を行っているのであって、計画変更の連絡がなかったというのは心外である旨回答した。また、住民側が本件マンションの建設計画を変更(階高の減少等)する意思があるかと質問したのに対して、原告側は、現計画が収支見込の最低ラインであるので計画を変更する意思はないと回答した。原告代表者は「住民の理解を得ようとも思わない。自分の土地に何を建てようが勝手である。」とも述べた。

そして、原告側は、同年五月二八日に提示した協定書案どおり明日の月曜日(同年六月一九日)から着工する。本件マンションの計画を変更するつもりはないが、工事中の騒音や工事の工程、連絡体制等についての話合いの場はいつでも設定すると述べたのに対し、住民側から、互いに協定書に記名捺印するまで着工しては困るとの意見が出されたが、原告側は、いつまで待てばよいのか分からないようでは原告側としては承知できないので、いずれにしても週明けより着工すると述べ、散会となった。

なお、席上、原告側は、住民側の質問に答えて、岡本に五〇〇万円を、第六町会分として松田に二〇〇万円を支払い、領収証も受け取っていると述べた。

7(一)  右6(四)の同月一八日の話合いでの原告側の発言をきっかけとして、本件協議会の松田会長が本件協議会に諮ることなく原告から金銭を受け取っていたことが発覚したため、本件協議会は、同月二〇日、緊急役員会を開催し、松田会長を解任して(本件協議会を脱会)、後任の会長に第六町会の堤を選任した。そして、本件協議会は、同月二九日付内容証明郵便(甲一二の1)により、原告に対し、原告と松田及び岡本との間でなされた金銭授受は、本件協議会及び第六町会として公式に依頼したものではなく、右各会とは一切無関係であり、本件協議会は松田会長を解任した旨通知した。

(なお、原告は、右通知は、被告らが近隣住民の一部を煽動したことによる旨主張するようであるけれども、これを認めるに足りる証拠はない。)

(二)  他方、原告は、同月一八日の話合いの席上で通告したとおり、同月一九日に仮設材の搬入を開始し、以後、仮囲い(敷地と隣地との境界の間の安全対策の棚)の設置や縄張作業を行い、同年七月二〇日、鶴見警察署に対し、通行期間を同月二五日から同年八月一日までとする大型工事車輌通行許可を申請し、同年八月四日には、大阪市に対し、実施期間を同月一二日から同年一一月二日までとする特定建設作業実施の届出を行うなどして、徐々に本格的に工事をする準備を整えた。

また、原告は、本件工事の工事期間、作業時間、騒音・振動・塵埃等対策、工事車輌対策に関する原告及び池田建設と近隣住民との間の協定書(甲一一)に近隣住民の署名押印を得るよう松田に依頼していたが、同年六月末ころ、近隣住民二一名から右協定書に署名押印を得ることができた。右二一名のうち二〇名は横堤一丁目の住民であるが、その居住地は別紙地図(乙八)のとおりであった。

(原告は、被告らは近隣住民の一部を煽動し、同年六月二四日に本件マンションの建設反対運動を再開した旨主張するけれども、右反対運動の内容は明らかでなく、これを認めるに足りる証拠もない。)

(三)  原告及び池田建設は、右(二)のように本格的工事の準備を進める一方で、近隣住民との話合いの機会も模索した。すなわち、同年七月五日、池田建設の名越が本件協議会の堤会長宅を訪問して、説明会の開催を申し入れ、同月七日には、名越が同じく堤会長宅を訪問し、原告代表者が近隣住民に宛てた、「本件マンションの事業遂行に際しまして、弊社として建設を急ぐあまり、皆様方に多大なご迷惑をおかけしました事、並びにこれまでの弊社の対応について衷心よりお詫び致します。つきましては何とぞ、近隣各位の皆様に弊社の意向を御理解いただき陳謝の場を設け、皆様の御要望を承りたくお願い申し上げます。今後近隣各位の皆様の工事に対する御協力と御理解を得るべく鋭意努力し、話し合いを進めさせていただく所存であります。しかしながら、すでに御購入いただきました入居者の方々よりの御要望もあり、基本的な事業計画の変更の検討については、御遠慮いただきたくお願い申し上げます。また、入居時期の関係から工事の着工についても格段の御配慮を賜りたく併せてお願い申し上げます。工事に着工いたしても、当然話し合いは並行して継続し、さまざまな御要望を承り、条件の合意を得るように施工業者共々、誠意をもって話し合う事を約束いたします。」との内容の書面(乙二〇)を渡して、説明会の開催を要請した。しかし、堤会長は、謝罪しているようにも思えるが、やはり一方的な事業計画の推進を述べるに過ぎず、どのように住民と話し合う気があるのか分からないとして、再考を促した。

名越は、同月二六日、三たび堤会長宅を訪問し、堤会長が「工事車輌通行許可願いを提出するなど、工事を進める方向のようであるが、住民との話合いを放置したままで強行するつもりなのか。先月の話合いで約束されたように、話合いがつくまで着工は待って欲しい。」と要請したのに対し、従来どおりできるだけ話合いが済むまでは着工しないという話をした。しかし、話合いはいわば膠着状態であった。

8(一)  原告及び池田建設は、同月二八日、工事用資材の搬入を始め、同年八月三日には、クレーン車などを搬入し、同月四日、パワーショベルを搬入し、前日搬入したクレーン車(杭打ち機械)を使用して、基礎杭を打設するための穴(一本)を掘削する作業を開始した。

(二)  同月五日午前、原告及び池田建設は、基礎杭を打設するための穴を掘削する作業や掘削によって出た残土をパワーショベルを使用して移動したりする作業、さらに本件土地の南西端付近に二階建の現場事務所を建築する作業を行った。

このように原告が本格的に本件工事を開始したため、近隣住民の原告に対する不信感はますます増大し、本件協議会は、同日深夜、本件工事を監視するために、ネオコーポ管理組合の管理地である四番五の土地上にブロックで支柱を支えるなどしてテントを設置し(以下「本件テント」という。)、椅子を置いた。

(原告は、原告及び池田建設が、同日午前一〇時三〇分ころに右杭掘削工事を継続しようとしたところ、被告らを含む本件協議会のメンバー一〇数名が本件工事現場の入口付近において原告及び池田建設の従業員を取り囲み、かつ、大声で罵声を浴びせるなどして行動の自由を奪い、工事の継続を不可能とした[むろん、工事車輌の進入は不可能であった]と主張し、甲第三一号証及び証人田邉の証言中にはこれに沿う供述記載部分及び供述部分があるが、これを客観的に裏付けるに足りる証拠はなく、直ちに採用することはできない。)

(三)  同月六日は日曜日のため、本件工事は行われなかった。

同月七日、原告及び池田建設は、午前九時ころから、クレーン車を稼働させ、パワーショベルで残土を移動するなどの作業を行っていたところ、被告堀木を含む本件協議会のメンバー二〇名程度が、本件道路上において、工事を中止して近隣住民と話し合うよう要請した。午後からは本件工事は行われなかった。

(原告は、被告らを含む本件協議会のメンバーが右のように四番五の土地上に本件テントを設置するなどしたことをもって、原告及び池田建設の従業員並びに生コン車の本件工事現場への進入を不可能にしたかのように主張し、あるいは、被告らを含む本件協議会のメンバーは、右のように本件テントを設置しただけでなく、原告及び池田建設の従業員並びに生コン車を取り囲み、大声で罵声を浴びせるなどして、行動の自由を奪い、右従業員及び生コン車の本件工事現場への進入を不可能にしたとも主張し、甲第三一号証及び証人田邊の証言中にはこれに沿う供述記載部分及び供述部分があるが、これを客観的に裏付けるに足りる証拠はなく、直ちに採用することはできない。)

(四)  同月九日午前七時三五分ころ、ダンプカーなどが本件工事現場に到着し、原告及び池田建設は、同日午前一〇時ころにはパワーショベルなどを使用して作業を行っていた。原告及び池田建設が基礎杭を打設するために掘削した穴にコンクリートを流し込む作業をするため、本件工事現場にミキサー車を搬入しようとしたところ、近隣住民ら約二〇名が本件道路上に群がり、拡声器を使用して、あるいは住民が声を合わせて「工事を直ちに止めろ(止めなさい)。」「話合いをしなさい。」「強行着工絶対反対、地域住民の声を無視するな。帰れ。地域住民に説明しなさい。工事を止めて帰りなさい。」などと叫んだり、拡声器を使用して、「地域住民のみなさん、ただいま、池田建設・創建ホームは九階建のマンションを建てるためのコンクリートミキサー車を入れようとしています。強行に入れようとしています。どうか下へ降りてきて一緒に反対運動に参加して下さい。」などとネオコーポの住民に呼びかけるなどして、本件工事の中止を求めたため、ミキサー車を強引に進入させようとすると住民に接触するなどして人身事故を起しかねない状況になった。そのため、原告及び池田建設は、ミキサー車を搬入して本件工事を続行することを断念せざるを得なくなり、ミキサー車はUターンして帰って行った。

(なお、被告らが右行動に参加していたと認めるに足りる証拠はない。)

(五)  同月一〇日、原告及び池田建設の従業員は、前日のように近隣住民が本件道路上で工事車輌の前に群がるようなことがあっては本件工事を進行させることができないと考え、ネオコーポ管理組合の管理地である四番五の土地から本件土地の方へ近隣住民が出ないようにするため、四番五の土地との境界線上に杭を打ち始めた。近隣住民はこれに抗議し、こもごも「社長を出せ」「帰れ」と叫び、被告千頭は、拡声器で「創建ホーム吉村社長はこんなことを許しているのか。みなさん、よく見に来て下さい、これが創建ホームの仕事のやり方です。みなさん、見に来て下さい。」と叫び、近隣住民に抗議行動への参加を呼びかけた。駆けつけた警察官が話合いを促したため、混乱は収まった。

(なお、被告堀木及び同渡邊については、右抗議行動に参加していたと認めるに足りる証拠はない。)

(六)  同月一一日、原告及び池田建設の従業員と近隣住民との間で本件工事の実施をめぐってこぜりあいが生じ、本件道路の進入口付近で被告堀木、同千頭を含む約二〇名の近隣住民が、口々に(うち一人は拡声器で)、「後ろから押した。暴力反対。帰れ。住民の声を聞け。創建ホームは帰りなさい。」などと叫び、一時騒然とした状態となったため、パトカーが駆けつけ、警察官が「暴力沙汰になったら逮捕するぞ。」と告げたりして話合いをするよう指導したので、混乱は収まったが、結局、原告は本件工事を行うことができなかった(なお、被告渡邊については、右行動に参加していたと認めるに足りる証拠はない。)。そして、被告堀木と田邉部長とが話し合い、後日、原告と本件協議会とで話合いをすることになった。基礎杭を打設するために既に掘削した穴(一本)は、放っておくと人が落ちたりする危険性があるので、原告及び池田建設は、同日と同月一二日に右の穴を埋め戻す作業を行った。

その後、同月二〇日までの間は、池田建設の盆休みのため本件工事は行われなかった。

(なお、原告は、同月八日から同月一一日までの間、被告らを含む本件協議会のメンバー二〇数名は、原告及び池田建設の従業員や生コン車、建築機械・資材等の運搬車を取り囲み、本件工事現場への進入を阻止したと主張し、甲第三一号証及び証人田邉の証言中には右主張に沿うかのような供述記載部分及び供述部分があるけれども、右(四)ないし(六)認定の事実以外の事実については、右供述記載部分及び供述部分を客観的に裏付けるに足りる証拠がなく、採用することはできない。)

9(一)  同月一九日、原告と本件協議会との間で話合いがなされたが、双方の主張は平行線をたどり、双方の連絡窓口は、原告側が池田建設の中安副支店長、住民側が堤会長と定められた。同月二一日、原告及び池田建設は本件工事を再開した。原告は、被告堀木、白江理事長、大槻二郎を債務者として工事妨害禁止仮処分命令を申し立てていたところ(大阪地方裁判所平成七年(ヨ)第二二八八号)、同月二四日、右申立てを取り下げた。

(二)  同月二八日、原告側から原告代表者、原告担当者井上(住民側の要望で田邉部長と交代した。)、池田建設の中安副支店長、井尻、住民側から堤会長、下江第九町会長、大槻、被告堀木(第一〇町会長)、被告千頭、白江理事長などが出席し、話合いが行われた。住民側は、工事車輌がネオコーポ管理組合の管理地内に入らないこと、工事現場内外の清掃及び水撒き並びにタイヤ洗いの施設の設置、三階建への建築計画の変更、協定書ができるまでの間の本件工事の中止、土曜日(特に休校日の第二、第四土曜日)に工事を行わないことなどを求めた。これに対し、原告側は、工期の面から本件工事を中止することは考えていない旨回答するとともに、住民の意見を一つにまとめるよう要望し、散会となった。

10(一)  本件協議会は原告に話合いを求めたが、原告は堤会長が窓口であるとして話合いに応じず、その堤会長も、同年九月七日、第六町会、第九町会の約三〇名とともに本件協議会を脱会して金銭交渉に転じたため、本件協議会は、被告堀木が本件協議会の会長代行となって、抗議の意思を示すとともに原告を話合いの席につかせるために、同年八月一二日に中断していた抗議活動を同年九月八日に再開した。そして、当日、ダンプカーが本件道路に入ろうとした際、被告堀木を含む近隣住民は、本件道路の進入口付近で、「反対、帰れ。」などと口々に言いながら、「リーガル鶴見建設反対」「違法建築は許さない」と記載した横断幕や「リーガル鶴見建設絶対反対」などと記載したプラカードを掲げ、本件道路の進入口を塞いだため、二台のダンプカーは本件道路に進入することができなかった。

(なお、被告千頭及び同渡邊については、右行動に参加していたと認めるに足りる証拠はない。)。

(二)  以後、本件協議会のメンバーは、本件テントから工事車輌の出入りや作業の様子を監視し続けたが、実力を行使して工事車輌の通行を妨害したりすることはなく、本件テントも工事車輌の通行の障害にはならなかった。

他方、原告は、同年九月八日、被告堀木を債務者として建築工事妨害禁止等仮処分を申し立てるとともに(大阪地方裁判所平成七年(ヨ)第二五六二号)、ダンプカーなどを搬入したりもしたが、本格的な工事は行わず、本件土地に待機していたクレーン車(杭打ち機械)を使用して杭打ちを実施することもなかった。

これに対し、被告ら三名を含む近隣住民五名も、原告及び池田建設を債務者として建築工事続行禁止仮処分命令を申し立てた(同裁判所平成七年(ヨ)第二五九七号)。

(三)  被告堀木は、同月一三日、本件協議会の会長に選任された。

11  同年一〇月六日、右原告の申し立てた平成七年(ヨ)第二五六二号建築工事妨害禁止等仮処分命令申立事件及び近隣住民の申し立てた同年(ヨ)第二五九七号建築工事続行禁止仮処分命令申立事件につき、被告堀木に対し、本件テントの撤去、本件工事の妨害の禁止を命ずるとともに、近隣住民五名からの本件工事の続行禁止仮処分命令の申立てを却下する旨の仮処分決定(甲一三)がなされた。これを受けて、被告らは本件テントを撤去し、以後、監視活動を中止し、他方、原告は本件工事を本格的に再開した。もっとも、被告らは右決定を不服として大阪高等裁判所に即時抗告をしたが(平成七年(ラ)第七〇五号)、同年一一月四日、右即時抗告は棄却された(甲一四)。

12  平成八年七月三一日、本件マンションは完成した。

二  右一認定の事実に基づき、被告らの行為の違法性の有無を検討する。

1  (原告主張の第一回妨害行為の違法性について)

原告が、平成七年六月一四日に本件土地の草刈作業を行い、同月一九日に仮設材の搬入を開始し、以後、仮囲い(敷地と隣地との境界の間の安全対策の棚)の設置や縄張作業を行ったこと、本件協議会は、その間の同月二〇日、第六町会長で本件協議会会長の松田が同年五月一六日に本件協議会の他のメンバーに諮ることなく本件マンションの建設及び建設工事に同意し、第六町会が同意し協力する旨の「第六町会長松田代理人松崎洋右」名義の同意書(甲七)を原告に渡して近隣対策費として二〇〇万円を受領していたことを理由に松田会長を解任した上、同年六月二九日付内容証明郵便(甲一二の1)により、原告に対し、原告と松田及び松崎との間でなされた金銭授受は本件協議会及び第六町会として公式に依頼したものではなく、右各会とは一切無関係であり、本件協議会は松田会長を解任した旨通知したことは前記一の5、6(三)、7(一)及び(二)で認定したとおりである。

しかしながら、本件協議会が松田会長を解任したこと及び右通知をしたことが、原告の行っていた右作業を妨害する違法な行為といえないことは明らかである(前示のとおり、原告は、右通知は被告らが近隣住民の一部を煽動したことによる旨主張するようであり、また、被告らは近隣住民の一部を煽動し、同年六月二四日に本件マンションの建設反対運動を再開した旨主張するけれども、これを認めるに足りる証拠はない。)。

したがって、この点の違法をいう原告の主張は理由がない。

2  (原告主張の第二回妨害行為の違法性について)

(一) 本件協議会が平成七年八月五日深夜、本件工事を監視するために、ネオコーポ管理組合の管理地である四番五の土地上にブロックで支柱を支えるなどして本件テントを設置し、椅子を置いたこと、同月七日、原告及び池田建設が午前九時ころから、クレーン車を稼働させ、パワーショベルで残土を移動するなどの作業を行っていたところ、被告堀木を含む本件協議会のメンバー二〇名程度が、本件道路上において、工事を中止して近隣住民と話し合うよう要請したこと、午後からは本件工事は行われなかったことは前記一8の(二)及び(三)認定のとおりである。

しかし、右要請行為は、原告に対する要請、説得の域を超えるものではないから、これをもって違法な行為とはいえない(前示のとおり、原告は、原告及び池田建設が、同月五日午前一〇時三〇分ころに杭掘削工事を継続しようとしたところ、被告らを含む本件協議会のメンバー一〇数名が本件工事現場の入口付近において原告及び池田建設の従業員を取り囲み、かつ、大声で罵声を浴びせるなどして行動の自由を奪い、工事の継続を不可能とした[むろん、工事車輌の進入は不可能であった]と主張し、また、同月七日、被告らを含む本件協議会のメンバーが右のように四番五の土地上に本件テントを設置するなどしたことをもって、原告及び池田建設の従業員並びに生コン車の本件工事現場への進入を不可能にしたかのように主張し、あるいは、被告らを含む本件協議会のメンバーは、右のように本件テントを設置しただけでなく、原告及び池田建設の従業員並びに生コン車を取り囲み、大声で罵声を浴びせるなどして、行動の自由を奪い、右従業員及び生コン車の本件工事現場への進入を不可能にしたとも主張するが、これを認めるに足りる証拠はない。)。

(二) 同月九日、原告及び池田建設が基礎杭を打設するために掘削した穴にコンクリートを流し込む作業をするため、本件工事現場にミキサー車を搬入しようとしたところ、近隣住民ら約二〇名が本件道路上に群がり、拡声器を使用して、あるいは住民が声を合わせて「工事を直ちに止めろ(止めなさい)。」「話合いをしなさい。」「強行着工絶対反対、地域住民の声を無視するな。帰れ。地域住民に説明しなさい。工事を止めて帰りなさい。」などと叫んだり、拡声器を使用して、「地域住民のみなさん、ただいま、池田建設・創建ホームは九階建のマンションを建てるためのコンクリートミキサー車を入れようとしています。強行に入れようとしています。どうか下へ降りてきて一緒に反対運動に参加して下さい。」などとネオコーポの住民に呼びかけるなどして、本件工事の中止を求めたため、ミキサー車を強引に進入させようとすると住民に接触するなどして人身事故を起しかねない状況になり、そのため、原告及び池田建設はミキサー車を搬入して本件工事を続行することを断念せざるを得なくなったことは前記一8(四)認定のとおりであるところ、このような近隣住民の行為は、右(一)の同月七日の要請行為とは質的に異なり実力行使ともいうべき態様のものであり、原告による本件工事の施工を社会通念上不可能にするものということができる。

しかしながら、近隣住民が同月九日に右のような行為に出た経緯を検討するに、前記一認定の事実によれば、原告が平成六年七月下旬に本件土地上に一戸建建売分譲住宅の建設を計画していることを明らかにしていたことから、近隣住民は一戸建建売住宅が建設されるものと考えていたところ、原告は、その後同年一一月一六日にマンションを建設して分譲する目的でいずみファイナンスから本件土地を買い受け、同年一二月二六日大阪市建築主事に対し九階建の本件マンションの建築確認を申請し、平成七年一月二六日に右建築確認通知を受けた後も、近隣住民に対してマンション建設計画に変更したことを説明せず、同月三一日、近隣住民に予告することなく、本件土地にユンボ一台を搬入して杭芯出し作業を始め、同年二月二五日になって漸くネオコーポ管理組合の白江理事長、副理事長などに対し右建設計画について説明したものの、他の近隣住民に対しては何ら説明をしないまま、同年三月三日ころに本件マンション販売のチラシ(乙三)を新聞折込広告として配布し、大部分の近隣住民は、これにより初めて、原告が本件土地にマンション建設を計画していることを知り、原告に対し不信感を抱くに至ったこと、原告は、同年三月三日ころ以降も、近隣住民に具体的にマンション建設計画(マンション建設計画に変更した経緯も含む。)に関する説明を行うことなく、本件マンション販売のチラシを新聞折込広告として配布したりモデルルームを開設したりし、さらに、同年四月三日には近隣住民に対し同月一七日に本件工事に着工する旨記載したビラと工事概要書を配布するなど、一方的にマンション建設計画を進めたため、近隣住民は原告に対する不信感を強めたこと、原告は、第六町会長で本件協議会会長の松田や本件道路の一部である一番八の土地の所有者の岡本と交渉を進める一方、他の近隣住民の理解を得るよう十分努力せず、本件協議会からの求めに応じて同年五月二八日に漸く近隣住民との話合いの機会を設けたものの、右話合いにおいて次回(同年六月一一日)には原告代表者が出席するよう手配する旨述べておきながら、その同年六月一一日の話合いに原告代表者は出席しなかったこと、原告代表者が初めて出席した同月一八日の話合いにおいて、原告側は住民に対し計画変更の経緯など一定の説明を行ったものの、他方、原告代表者は、「住民の理解を得ようとも思わない。自分の土地に何を建てようが勝手である。」と述べるとともに、いつまで待てばよいのか分からないようでは原告側としては承知できないので、いずれにしても週明け(翌六月一九日)より着工すると述べ、住民の理解を得るよう粘り強く努力することなく、かえって近隣住民の反発を招く言動に出たこと、その後、同年七月五日、七日、二六日に、本件協議会の堤会長と池田建設の名越との間で説明会の開催について話合いがされている状況であり、しかも、同年五月末の話合いにおいて、予告なく音がするような本格的工事を開始するようなことはない旨述べておきながら、原告は、近隣住民に対し事前に予告することなく、同年七月二八日に工事用資材の搬入を始め、同年八月三日にはクレーン車などを搬入し、同月四日にはパワーショベルを搬入し、クレーン車(杭打ち機械)を使用して基礎杭を打設するための穴(一本)を掘削する作業を行って、本格的に本件工事を開始したため、近隣住民の原告に対する不信感はますます増大したことを指摘することができる。

そして、原告が経営上の判断からいずみファイナンスが本件土地の所有者であった時期における一戸建建売住宅の建設計画を、本件土地をいずみファイナンスから買い受けるに際しマンション建設計画に変更することはそれ自体非難されるべき事柄ではないけれども、一戸建建売住宅が建設されるのと九階建マンションが建設されるのとでは既設のマンションに住む近隣住民にとってもその影響が大きく異なることが予想されるのであるから、一戸建建売住宅の建設計画がマンション建設計画に変更された場合、近隣住民がその計画変更の経緯の説明を求めるのは理解できるところであるし、計画変更について知らされなかった近隣住民が施主に対し不信感を抱くのも無理からぬところということができ、施主としては、工事の概要のみならず計画変更の経緯をも説明し、近隣住民の理解を得るよう努力するのが相当というべきところ、原告は、近隣住民の理解を得るよう十分な努力を払わず、かえって、近隣住民の不信感を増大させるような言動をとったのである(原告は、本件土地上に一戸建建売住宅の建設計画をしていたのは本件土地の前所有者であるいずみファイナンスであり、同社は、右計画実現のための諸条件が満たされず、事業として成り立たなくなったためやむなく右計画を断念したものであり、原告自身は本件土地を取得したときからマンション建設を計画していたのであって、計画を変更したことはないと主張するが、前記一認定の事実によれば、原告は、本件土地を所有していたいずみファイナンスとともに本件土地上に建売分譲住宅を建設して分譲する事業を計画し、平成六年七月、原告の従業員である田邉部長がいずみファイナンスの担当者とともに第一〇町会の被告堀木に会って一戸建建売分譲住宅の建設を計画していることを明らかにし、四番五の土地の通行について同意を求め、同年八月二〇日には、同じく田邉部長が流通企業株式会社及び日本信託銀行の担当者とともにネオコーポ管理組合の白江理事長に対して一戸建建売分譲住宅建設計画を説明し、四番五の土地の通行について同意を求め、同月二二日ころには白江理事長宛の原告名義の「開発道路申請に関するご挨拶および同意ご依頼の件」と題する文書[乙二]を持参したというように、原告は、本件土地がいずみファイナンスの所有であった時期から既に、主体的に交渉しており、その時期におけるいずみファイナンスとの関係は必ずしも明らかでないものの、あたかも原告が事業主であるかのような外観を呈していたのであるから、原告自身が一戸建建売住宅の建設計画からマンション建設計画に変更したものと受け取られるのも当然ということができる。)。もっとも、他方において、本件協議会も、単に本件マンションの建設反対を主張するのではなく、原告に説明を求める事項、本件マンション建設に反対する理由、近隣住民の要求事項をより積極的に取りまとめるなどして、原告との話合いをより実質的なものにするなど原告との交渉方法になお考慮する余地があったといえるのであって、住民側にも反省すべき点があったといわざるを得ないけれども、この点を考慮に入れても、同年八月九日のミキサー車の搬入に当たって、近隣住民が前記行為に及ぶまでその行動をエスカレートさせたことについては、原告が工期の点で工事の早期進行を迫られていたという事情から、「住民の理解を得ようとは思わない。自分の土地に何を建てようと勝手である。」との基本的な考え方に基づき、近隣住民の理解を得るよう十分な努力を払わず、かえって、近隣住民の不信感を増大させるような言動をとったまま、本件工事を本格的に開始したことに原因があることを考えれば、同月九日の近隣住民の行動をもって違法な行為であるとまで断定することはできない(なお、前示のとおり、被告らが右行動に参加していたと認めるに足りる証拠はない。)。

(三) 同月一〇日、近隣住民が原告及び池田建設の従業員に抗議し、こもごも「社長を出せ」「帰れ」と叫び、被告千頭は、拡声器で「創建ホーム吉村社長はこんなことを許しているのか。みなさん、よく見に来て下さい、これが創建ホームの仕事のやり方です。みなさん、見に来て下さい。」と叫び、近隣住民に抗議行動への参加を呼びかけたことは前記一8(五)認定のとおりであるけれども、同認定事実によれば、近隣住民が右抗議行動を行ったのは、原告及び池田建設の従業員が、前日のように近隣住民が本件道路上で工事車輌の前に群がるようなことがあっては本件工事を進行させることができないと考え、ネオコーポ管理組合の管理地である四番五の土地から本件土地の方へ近隣住民が出ないようにするため、四番五の土地と本件土地との境界線上に杭を打ち始めたことを原因とするものであり、このような同日の経緯に右(二)に説示したところを併せ考えれば、近隣住民の右抗議行動をもって違法な行為であるということはできない(なお、前示のとおり、被告堀木及び同渡邊については、右抗議行動に参加していたと認めるに足りる証拠はない。)。

(四) 同月一一日、原告及び池田建設の従業員と近隣住民との間で本件工事の実施をめぐってこぜり合いが生じ、本件道路の進入口付近で被告堀木、同千頭を含む約二〇名の近隣住民が、口々に(うち一人は拡声器で)「後ろから押した。暴力反対。帰れ。住民の声を聞け。創建ホームは帰りなさい。」などと叫び、一時騒然とした状態となったため、パトカーが駆けつけ、警察官が「暴力沙汰になったら逮捕するぞ。」と告げたりして話合いをするよう指導したので、混乱は収まったが、結局、原告は本件工事を行うことができなかったことは前記一8(六)認定のとおりである。しかし、近隣住民の右行動は、同月九日と同月一〇日に行われた抗議行動の延長線上にあるといえるのであって、右(二)に説示したところを考えれば、未だ違法な行為であるということはできない(なお、前示のとおり、被告渡邊については、右行動に参加していたと認めるに足りる証拠はない。また、同月一一日と一二日に基礎杭打設のための穴を埋め戻す作業を行った後、同月二〇日までの間は、池田建設の盆休みのため本件工事は行われなかった。)。

3  (原告主張の第三回妨害行為の違法性について)

(一) 同年九月八日、ダンプカーが本件道路に入ろうとした際、被告堀木を含む近隣住民は、本件道路の進入口付近で、「反対、帰れ。」などと口々に言いながら、「リーガル鶴見建設反対」「違法建築は許さない」と記載した横断幕や「リーガル鶴見建設絶対反対」などと記載したプラカードを掲げて、本件道路の進入口を塞いだため、二台のダンプカーは本件道路に進入することができなかったことは前記一10(一)認定のとおりである。横断幕やプラカードを掲げて本件道路の進入口を塞げば、工事車輌は本件道路に進入することができないのであるから、その行為態様によっては違法となる場合があるけれども、右行為は同日に短時間行われたものにすぎず、その後継続して行われることはなかったのであり、前記2(二)に説示したところを併せ考えれば、やや行き過ぎの感は否めないにしても、未だ違法な行為であるとまで断定することはできない(なお、前示のとおり、被告千頭及び同渡邊については、右行動に参加していたと認めるに足りる証拠はない。)。

(二) 以後同年一〇月六日まで、本件協議会のメンバーは、本件テントから工事車輌の出入りや作業の様子を監視し続けたことは前記10(二)認定のとおりであるけれども、実力を行使して工事車輌の通行を妨害したりすることはなく、本件テントも工事車輌の通行の障害にはならなかったのであって、右監視行為をしたことをもって違法であるとはいえない。

4  以上のとおり、原告が被告らを含む本件協議会のメンバーによる共同不法行為を構成すると主張する近隣住民の行為は、いずれも、違法なものであるとまでいうことはできず、不法行為を構成するということはできないから、原告の被告らに対する請求は、その余の点について判断するまでもなく、理由がないといわなければならない。

三  結論

よって、原告の被告らに対する請求をいずれも棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法六一条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官水野武 裁判官石井寛明 裁判官石丸将利)

別紙〈省略〉

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